エネルギー貿易分野、特に石油や天然ガスの国際取引において、海運はその大量輸送と低コストの優位性により、依然として主要な輸送手段としての地位を占めています。
企業規模の違いにより、海運物流管理の手法も異なります。一部の超大手エネルギー企業は自社船隊を保有し、高い管理能力を有するものの、コストが非常に高額になります。一方、中小規模の企業は主にサードパーティの物流会社に依存しており、輸送能力に制約があり、管理が簡素化されています。
この両者の利点を組み合わせたのが「海運チャーター（用船）モデル」です。このモデルは、自社船隊の莫大な維持コストや管理の複雑さを回避しつつ、サードパーティへの完全依存による輸送能力の制約も受けないため、多くの中堅・大手エネルギー商社にとって最適な選択肢となっています。
したがって、企業の海運物流管理において、チャーター海運モデルはより代表的な存在であり、本稿ではこのモデルに焦点を当てて議論します。
チャーター海運モデルの課題と解決策を詳細に分析するために、本稿ではH社を代表例として取り上げます。H社は国際的な大手石油トレーダーであり、世界中で事業を展開し、年間取引量は膨大です。そのため、H社のチャーター海運物流管理の複雑性と規模は、典型的なケースといえます。こうした課題に対応するため、H社はFusionシステムを導入し、デジタル技術を活用して輸送の調整を最適化し、滞船料（デマレージ）を削減し、物流実行の効率を向上させることを目指しました。
H社が直面した主要課題、Fusionによる最適化ソリューションとその効果を考察することで、チャーター海運モデルにおける物流管理の課題と解決策を包括的に理解し、同様のモデルを採用する企業にとって有益な参考情報を提供します。
一. H社の海運物流管理の課題
貿易プロセスが長く、輸送期間も長期にわたる上、市場環境が複雑であるため、H社の海運物流管理には以下の3つの主要な課題が存在します。
1.物流調整の複雑さと輸送遅延のリスク
海運物流は、売買契約、船期の調整、チャーター審査、航行追跡、積卸港との調整など、複数のプロセスを含みます。いずれかのプロセスに問題が生じると、実行の遅れを引き起こし、ひいては全体の貿易計画に影響を及ぼします。具体的な問題は以下の通りです。
- 物流の対応関係が不明確：売買契約、在庫、および輸送中の貨物の状況を正確に一致させることが困難であり、その結果、船と貨物のマッチングが混乱し、スケジュール調整や運行の実行に影響を及ぼし、滞船料のリスクを増大させる。
- 港湾混雑や船舶調整のミス：輸送遅延を引き起こし、滞船料や輸送コストを押し上げるだけでなく、契約履行や利益にも悪影響を及ぼす。
- 契約履行の偏差による紛争発生：輸送遅延や誤った実行により、契約上のトラブルが発生し、信用リスクが生じる可能性がある。
2.物流情報の同期遅延による貿易実行とリスク管理への影響
海運物流は、輸送計画、実行調整、決済など複数のプロセスを含みます。情報の流れがスムーズでないと、貿易実行の遅延や、取引判断およびリスク管理への影響が生じます。
- 取引変更が物流調整に即時反映されない：契約変更後、物流情報がタイムリーに更新されないため、輸送が滞り、契約履行や取引判断の妨げとなる。
- 物流データの遅延が貿易およびリスク管理に影響を与える：物流の進捗状況がリアルタイムで貿易実行部門やリスク管理部門に反映されないため、進行状況の管理が困難になり、マーケット・リスクの管理（マーク・トゥ・マーケットやヘッジ戦略）にも悪影響を及ぼす。
3.物流コスト管理の困難さ、決済・資金管理の制約
海運物流のコストは、市場の運賃変動の影響を受けるほか、滞船料や運賃関連費用の複雑な計算を伴います。物流と財務データが連携していないと、コスト管理、決済、資金管理の効率が低下します。
- 滞船料の計算の不透明さ：契約条項が複雑で、費用の分担方法について紛争が発生しやすく、追加コストが増大する。
- 運賃計算の複雑さ：変動価格設定、多者間の費用分担、責任の所在の不明確さなどが決済効率を低下させ、コスト管理に影響を及ぼす。
- 物流と財務データの同期が取れない：運賃や滞船料の決済が遅れると、事業実行や財務計画に悪影響を及ぼし、資金調達コストの上昇や資金効率の低下につながる可能性がある。
上記の課題により、H社は海運物流管理において、低効率・高コスト・高リスクという問題に直面しており、収益性にも直接的な影響を及ぼしていました。このような状況を改善するため、H社は情報システムとプロセス管理の最適化を決定し、Fusion（ETRMシステム）に海運物流機能をカスタマイズして組み込みました。 これにより、物流管理の精緻化を実現し、取引・物流・リスク管理・財務を統合管理することで、コスト削減と効率向上を図り、利益の最適化を目指しました。
二. Fusionの特徴機能：海運物流管理機能の概要
Fusionは総合的なCTRM/ETRM管理システムとして、エネルギー貿易企業に取引管理、市場リスク管理、財務・資金管理を統合したソリューションを提供します。特に、傭船海運物流の管理においては、「物流アセンブリ」「傭船管理」「輸送実行」「データ管理」の4つの主要モジュールを通じて、H社の物流調整の最適化、コスト削減、リスク管理、意思決定の最適化を支援しています。
1. 物流アセンブリ機能：貿易と物流のマッチング効率向上
Fusionの物流アセンブリ機能は、取引と在庫契約をインテリジェントにマッチングし、柔軟な物流単位の構成を可能にします。
- マッチング方式：売買契約のマッチング、在庫マッチング、単独マッチング（未マッチの輸送中貨物）をサポート。
- サブ物流アセンブリ：サブ物流を追加し、メイン物流と統合管理することで、傭船計画と運賃決済を最適化。
コアバリュー：物流マッチングの効率を向上させ、契約の複雑性による実行遅延を削減し、輸送計画の精度を向上。
2. 傭船管理機能：航海傭船と定期傭船の契約管理を最適化
Fusionは、航海傭船および定期傭船の契約および運用管理を含む、包括的な傭船管理機能を提供します。
- 航海傭船管理：契約、費用、貨物スケジューリング、運行記録、入出金などのプロセスをサポートし、船舶と貨物のマッチングの正確性を確保します。
- 定期傭船管理：定期傭船契約および航海情報を最適化し、傭船の使用効率を高めるとともに、傭船コストとリスクの管理を強化します。
コアバリュー：H社が船舶リソースの最適配置を実現し、傭船リスクを低減し、輸送効率を向上させることを支援します。
3. 輸送実行機能：輸送コストとリスクを低減する全工程管理
輸送実行機能は、船舶スケジューリングから輸送モニタリングまでの全プロセス管理を含み、物流情報、費用管理、滞船費分析、燃費消費、運航監視、緊急対応、輸送紛争、荷役港管理などをカバーしています。
- 荷役港の動態モニタリング：港湾作業の進捗と重要日程をリアルタイムで把握し、船期の遅延リスクを軽減。
- 費用・滞船費分析：輸送コストを自動計算し、滞船費の分析を提供し、コスト管理を最適化。
- 緊急対応と輸送紛争管理：事故記録や紛争処理をサポートし、契約履行能力を向上。
- 荷役港エージェント評価：評価スコアを活用し、荷役港の実行品質を測定し、今後の最適化に活用。
コアバリュー：全プロセス監視を通じて物流リスクを低減し、輸送コストを最適化し、運営効率を向上。
4. マスターデータ管理とシステム統合：データの正確性と意思決定品質の向上
Fusionは、主要な物流データを統合管理し、外部の物流システムとシームレスに連携可能です。
- マスターデータ管理：船舶、港湾、船主などの物流基盤データを集中管理し、重複入力を削減し、データの正確性を向上。
- AISシステムとの統合：リアルタイムで船舶の動態を取得し、輸送スケジューリングを最適化し、物流実行の透明性を向上。
コアバリュー：データ統合によって意思決定の品質を向上させ、物流、取引、財務などの各業務プロセスの効率的な連携を実現。
上記の4つの主要モジュールの連携により、FusionはH社に対し、海運物流全体を正確に制御するシステム管理手法を提供します。次に、これらの機能がどのようにH社の物流調整、情報同期、コスト管理の課題を的確に解決し、契約履行率の向上、コスト削減と効率化、市場競争力の強化を実現するのかを詳しく分析します。
三. Fusion海運物流管理方案：H社のコア課題を正確に解決
1. 精密な物流スケジュールと効率的な輸送実行
1）明確なマッチング、船期の最適化——物流マッチングと船期調整の課題を解決
物流組み合わせ機能によるマッチング関係の統合
物流マッチングの課題を解決するため、システムは物流組み合わせ機能を通じて、購買と販売のマッチング、在庫のマッチング、および輸送中の貨物の状態（片方向マッチング）を巧妙に統合し、明確な貨物の流れを形成しました。これにより、貿易、在庫契約、物流が正確にマッチングされます。
船運取引モジュールによる統一管理サポート
Fusionの船運取引モジュールは、物流単位とのバインディングをサポートし、船と貨物のマッチングを容易にし、船舶、貨物、リース契約などの情報が一目で分かるようになり、取引、在庫、物流の統一管理を実現します。これにより、輸送実行の透明性が大幅に向上しました。
歴史データとリアルタイムデータを活用した計画の最適化
Fusionは、物流組み合わせやチャーター管理などのモジュールを使用する際に、過去の実行データやAIS情報を組み合わせて輸送計画を最適化します。例えば、システムが提供するETA（予想到着時刻）、航速、航程、過去の航路などの重要なデータを活用し、輸送担当者は合理的な輸送時間を計画し、船期の調整を最適化します。これにより、計画ミスによる物流の遅れを効果的に減少させます。
これらの機能により、船期の遅延や滞留費用の支出を減少させるだけでなく、チャーターの利用率を向上させ、物流コストの管理を最適化し、企業の安定した契約履行と信用リスクの低減に重要な保障を提供します。
2）リアルタイム監視、高効率の代理店選定——港湾の混雑と船舶の調整課題に対応
船舶の運行をリアルタイムで監視
海運物流の港湾の混雑と船舶の調整不良の課題に対して、システムは輸送実行モジュールの船舶の経路消費、運行監視などを通じて、AISデータを統合して船舶運行をリアルタイムで監視します。これにより、物流チームは船舶の動向を常に把握できます。また、港に到着した時間、接岸時間、積み降ろし作業の進捗などの詳細な情報も記録され、情報の透明性が向上します。
効率的な港湾代理店の選定
システムは、港湾の船舶代理店の評価機能をサポートし、高効率の代理店を選定して港湾作業効率を向上させます。
これらの機能が協力し、物流チームは迅速に変化に対応し、船舶の調整を精密に行い、港の混雑リスクを効果的に低減させ、滞留費用や輸送コストを削減します。
3）全過程記録、迅速な対応——契約執行に関する紛争リスクを解決
重要なデータの全過程記録
システムは、チャーター、輸送、積み降ろし、船期調整など、輸送実行の重要なデータを全過程で記録し、完全なログを作成します。これにより、操作が証拠に基づいて行われていることが確認できます。
輸送紛争管理機能
輸送実行の輸送紛争機能は、紛争の時間軸、責任者、原因などを詳細に記録し、問題を迅速に特定して解決策を策定するサポートをします。
これにより、契約執行の偏差や紛争の発生を予防し、紛争が発生した場合には処理過程を迅速化し、責任を明確に分担し、人工での調整コストを効果的に低減します。最終的に、Fusionは企業が法的訴訟や信用リスクを効果的に減少させるのに役立ちます。
2. 物流情報の同期と業務協調管理
1）データの連携、同期更新——物流情報の同期更新の課題を解決
物流情報の同期更新が難しい課題に対して、Fusionはデータ連携メカニズムを通じて、取引契約の変更が物流計画の調整を迅速に引き起こせるようにします。
例えば、取引注文の内容が変更されると、輸送実行中の貨物情報も同期して更新され、貿易実行、輸送計画、契約履行が一貫して保たれます。これにより、貿易プロセスの柔軟性と対応速度が向上し、全体的な貿易計画が順調に進行します。
2）リアルタイム同期、精密なリスク管理——物流データ遅延への対応
物流データと貿易実行の同期
物流データの遅延が貿易実行に影響を与える課題に対して、システムは自動同期メカニズムを通じて、物流情報をリアルタイムで貿易実行モジュールに反映させ、貿易実行担当者は常に輸送進行状況を把握し、計画を適時に調整し、運営リスクを低減させます。
物流データとリスク管理の連携
同時に、Fusionは物流データとリスク管理を緊密に連携させ、市場リスクの判断基準として精密な情報を提供します。例えば、港湾の動態監視を通じて、到着港、出発港、接岸、積み降ろしの主要な時間点を厳格に管理し、リスク管理はこれに基づいてヘッジ計画を最適化します。
リアルタイムの市場監視計算を通じて、物流データとリスク管理モデルが結びつき、最新の輸送状態に基づいた正確な市場リスクの計算が行われます。これにより、物流データの遅延による市場監視の誤差を減少させ、ヘッジ戦略の精度が向上し、市場リスクが軽減されます。
以上のように、物流データの同期は業務協調の効率を向上させるだけでなく、物流データの遅延による不必要な損失を効果的に回避し、企業の市場競争力を強化します。
3. 物流コスト管理と財務資金管理
1）自動計算、透明な配分——滞延費用計算の問題を解決
滞延費用自動計算
滞延費用計算の問題に直面した場合、システムは自動計算メカニズムを使用して滞延費用を正確に算出し、計算プロセスの可視化もサポートして費用を透明かつ明確にし、契約上の争いを効果的に減少させます。
滞船理由の分析
輸送実行モジュールには、滞延原因分析機能があり、滞延コストの主な原因（例：港での荷役遅延、天候の影響、船のスケジュール調整など）を特定し、インテリジェントな配分メカニズム（自動配分および手動配分をサポート）を通じて費用責任を合理的に分担し、コスト管理を最適化します。
これにより、滞延費用の計算の正確性と適合性が向上し、追加の滞延費用支出が削減され、H社の財務管理の柔軟性と輸送実行効率が向上しました。
2）柔軟な計算、明確な配分——運賃計算の複雑な課題に対応
2種類の運賃計算モードをサポート
運賃計算について、システムは変動運賃とパッケージ料金の2種類の運賃計算モードをサポートし、異なる契約条件に柔軟に対応し、費用計算が正確であることを保証します。
自動運賃計算と配分
Fusionは、自動運賃計算をサポートし、輸送計画と運賃データに基づいて各種費用を迅速に計算し、手動計算の誤差と争いを大幅に削減します。
運賃の配分に関しては、システムは自動配分と手動配分機能を提供し、費用の帰属が明確で確実に行われ、決済における争いを効果的に防止します。
これにより、運賃計算の正確性と財務処理の効率が向上し、H社のコスト管理能力が強化され、世界の海運市場での競争力維持に強力な支援を提供します。
3）自動同期、資金の最適化——物流と財務の非同期問題を解決
物流と財務データの同期
Fusionは、H社の物流と財務データの非同期問題に対して、高効率の解決策を提供します。
運賃、滞延費用などの物流費用の自動計算と配分をサポートするだけでなく、物流費用データが決済モジュールに自動的に同期され、財務伝票が自動的に生成され、決済プロセスが迅速化され、決済の誤りや遅延が大幅に減少します。
正確な物流コスト、資金配分の最適化
前述の正確な物流コスト計算とリアルタイムデータ同期は、財務チームに正確なコストデータを提供し、資金の流れを前もって計画し、資金配分を最適化し、短期的な流動資金リスクを低減させます。
この解決策は、財務決済の正確性と効率を向上させ、企業の資金運営能力を高め、資金調達コストを削減し、H社の運営と成長に重要な役割を果たします。
Fusionの装置、チャーター、輸送実行などの物流機能の実施により、H社の海運物流管理レベルは顕著に向上し、全体的な実施成果は以下の通りです：
- コスト削減：船の遅延が約30％減少し、追加の滞延費用支出が25％減少し、運賃計算の誤差が40％減少し、物流コストが効果的に削減されました。
- 効率向上：輸送実行の透明性が向上し、チャーター利用率が20％向上し、貿易プロセスの対応速度が35％向上し、物流情報の同期更新のタイムリー率が95％に達し、業務協力の効率が大幅に向上しました。
- リスク低減：契約履行における争いの発生率が50％減少し、法的訴訟と信用リスクが40％減少し、市場リスクのエクスポージャー誤差が30％減少し、企業の運営安定性が強化されました。
- 資金の最適化：財務決済の効率が45％向上し、短期流動資金リスクが25％減少し、資金運営能力が顕著に強化されました。
四. 結語：技術の力による支援と業界への示唆
H社の実践は、Fusionが海運物流管理において持つ核心的な価値を実証しました。― 物流の統合、船舶賃貸管理、輸送実行、データ連携の四大機能を通じ、企業は単に調整の遅延、情報サイロ、コスト管理の失敗といった問題を解決しただけでなく、取引、リスク管理、財務の一体化連携を実現しました。
この事例は、大量エネルギー取引業界にとって重要な示唆を提供しています：
- 技術が効率を推進する： デジタルツール（例：ETRMシステム）は物流の透明性と応答速度を著しく向上させ、人為的リスクを低減させる。
- 全体連携の必要性： 物流、取引、リスク管理、財務データのリアルタイム連動が、意思決定の最適化とコスト削減の基盤となる。
- 継続的な改善で挑戦に対応： 航運市場の変動とサプライチェーンの不確実性に直面して、企業は技術と管理戦略を絶えず最適化する必要がある。
業界は、将来的に人工知能やブロックチェーンなどの技術の海運物流への応用をさらに探求し、より強靭なグローバルエネルギー取引ネットワークの構築を目指すことが期待される。
